
不動産投資を進める中で、「そろそろ法人化した方がいいのだろうか」と考え始めている方は多いと思います。実際、規模を拡大していく段階になると、個人での運営に限界を感じる場面が出てきます。
ただし、法人化にはメリットだけでなく、見落としがちなデメリットも存在します。そのため、正しく理解したうえで判断することが重要です。本記事では、不動産投資における法人化のメリットとデメリットを、具体的な数字を交えながらわかりやすく解説します。
なお、法人化の検討タイミングについては、一般的に課税所得が年間900万円を超えたあたりが目安とされています。これは、国税庁が公表している所得税の税率と法人実効税率の逆転ポイントが、おおよそその水準にあたるためです。ただし、個人の状況によって最適なタイミングは異なるため、税理士への相談を推奨します。
この記事でわかること
- 不動産投資における法人化の4つのメリット
- 見落としがちな法人化の4つのデメリット
- 法人化を検討すべきタイミングの目安
なお、法人化の判断は税務・法務に関わる内容も含まれます。具体的な手続きや節税戦略については、税理士や司法書士などの専門家への相談を推奨します。
不動産投資の規模拡大を目指すなら、早い段階から法人化を検討する価値があります。ただし、デメリットも正しく理解したうえで判断することが重要です。
法人化の4つのメリット
❶ 不動産投資の規模を拡大しやすい
一般的に、個人よりも法人の方が社会的信用力が高く、融資を継続的に受けやすいとされています。個人でも実績を積み重ねることで融資を引き続けることは可能ですが、2〜3棟ほど購入した段階で融資枠がいっぱいになり、それ以上の規模拡大が難しくなるケースも少なくありません。
一方で、法人として事業実績を積んでいくと、事業性融資(プロパーローン)を受けられる可能性が出てきます。そのため、規模拡大を見据えるなら、個人よりも法人での運営が有利と言えます。
ただし、法人を設立してすぐに事業性融資を受けることはほぼ不可能で、最初は個人の延長として審査されます。事業性融資の道は、法人として3期分の決算書を作成してから見えてくるものです。そのため、まずは法人を設立し、着実に利益を積み上げていくことが先決です。
また、中小企業庁が公表している融資制度においても、法人格を持つことで利用できる制度の幅が広がります。個人では申請できない制度融資や保証制度にアクセスできるようになる点も、法人化のメリットのひとつです。
法人化の効果が出始めるのは設立から3年後。早めに動き始めることが重要です。
❷ 法人税は所得税よりも低い
個人に課される所得税と住民税(10%)を合算した税率は以下の通りです。
| 課税される所得金額 | 税率(所得税+住民税) |
|---|---|
| 195万円以下 | 15% |
| 195万円超〜330万円以下 | 20% |
| 330万円超〜695万円以下 | 30% |
| 695万円超〜900万円以下 | 33% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 43% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 50% |
| 4,000万円超〜 | 55% |
個人の場合、最高税率は55%にのぼります。一方、中小法人の法人税率は以下の通りです。税率の詳細は国税庁「No.5759 法人税の税率」でも確認できます。
| 課税される所得金額 | 法人税率 | 実効税率 |
|---|---|---|
| 400万円以下 | 15%(軽減税率) | 約26% |
| 400万円超〜800万円以下 | 15%(軽減税率) | 約28% |
| 800万円超〜 | 23.2% | 約34% |
所得が800万円を超えた場合でも、法人の実効税率は約34%です。つまり、個人と法人では最大で20%以上の税率差が生じることになります。また、規模がそれほど大きくない段階でも、法人の方が税率は低くなります。
今後も法人税率の引き下げと個人への増税という方向性は続くと予想されるため、長期的に見ても法人での運営が有利と考えられます。
❸ 節税の選択肢が広がる
法人化することで、個人では使えない節税手段を活用できます。主なものは以下の通りです。
- 交際費・宿泊費・交通費などを経費計上できる:日常業務に関連する費用を幅広く経費にできます
- 不動産売却時の損益通算が可能:個人の場合、譲渡所得は分離課税のため他の所得と相殺できません。しかし法人の場合は、売却益・売却損を他の所得と損益通算できるため、大幅な節税効果が期待できます
- 役員報酬・退職金を経費計上できる:法人の収益を給与として費用計上することで課税所得を抑えられます。さらに家族に役員報酬を支払うことで、所得を分散する効果も得られます
特に不動産の規模を拡大していくと売却の機会も増えてくるため、損益通算できるという点は非常に大きなメリットと言えます。なお、損益通算の詳細については国税庁「No.2250 損益通算」を参照してください。
また、役員退職金については、功績倍率方式などにより算出した金額を経費計上できます。個人では認められない退職金の損金算入が可能になる点も、長期保有・長期運営を前提とする不動産投資家にとって大きな節税メリットになります。
❹ 損失の繰越が最大9年間可能
個人では損失の繰越が3年間に限られますが、法人であれば最大9年間の繰越が可能です。詳細は国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」で確認できます。
たとえば、ある年度に大規模修繕や空室長期化によって損失が発生した場合でも、その損失を翌年以降の利益と相殺することができます。これにより、年度ごとの税負担を平準化し、安定した資金繰りを維持しやすくなります。
ただし、長期間にわたって赤字が続いている状態では、金融機関からの評価が下がり、融資を受けにくくなります。したがって、この制度はあくまで一時的な損失への備えとして捉えておくのが現実的です。
法人化の4つのデメリット
❶ 設立コスト・運営コストがかかる
法人を設立する際には、定款の作成や法務局での登記手続きが必要です。登記手続きの詳細は法務局「会社・法人の登記手続き」でも確認できます。その際にかかる費用は以下の通りです。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款印紙代(電子定款の場合) | 0円 | 0円 |
| 定款認証手数料 | 5万円 | 0円 |
| 定款の謄本手数料 | 約2千円 | 0円 |
| 登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
| 合計 | 約20万円 | 約6万円 |
また、定款作成を行政書士に依頼する場合は、上記にプラスして10〜15万円程度かかります。
さらに、法人には「法人住民税の均等割」が課税されます。これは所得がゼロでも、法人が存在するだけで年間約7万円が発生する税金です。そのため、たとえ赤字であっても毎年コストが発生する点を念頭に置いておく必要があります。
❷ 長期譲渡所得の優遇制度が使えない
個人名義で不動産を売却する場合、所有期間によって税率が大きく変わります。詳細は国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」および「No.3211 短期譲渡所得」を参照してください。
| 所有期間 | 区分 | 税率 |
|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 約39.6% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 約20.3% |
つまり、5年を超えて売却すれば税率が約半分になります。一方で、法人名義の場合は所有期間に関係なく、売却益に対して常に約30%の税金がかかります。
したがって、5年を超えて不動産を売却する場合は、個人名義の方が税率面で有利になります。出口戦略を考える際には、この点を必ず考慮する必要があります。
❸ 法人のお金を自由に使えない
法人が得た利益は、納税後に剰余金として会社に蓄えられます。そのため、法人の口座にあるお金を個人(社長)が自由に使うことはできません。法人のお金を無断で使用すると、業務上横領に該当する場合があります。
法人から個人へお金を移すためには、役員報酬として経費計上する必要があります。ただし、役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内に金額を決定しなければならず、年度途中での変更は原則として認められていません。
そのため、役員報酬を高く設定しすぎると会社が赤字になるリスクがあり、逆に低く設定しすぎると法人に課税所得が多く残ってしまいます。この見極めは非常に難しく、専門家のサポートが必要になる場面です。
❹ 個人の物件を法人に移す際にコストがかかる
個人で所有している不動産を法人に移す場合、個人から法人への「売却」として扱われます。そのため、登記費用・司法書士への報酬・不動産取得税などが新たに発生します。
つまり、個人で購入した際と同じコストがもう一度かかることになります。物件によっては数百万円規模の費用が発生するケースもあるため、最初から法人名義で購入を進めていく方が、長期的にはコストを抑えられます。
法人化を検討しているなら、なるべく早い段階で動き始める方がコスト面でも有利です。
メリット・デメリットの比較まとめ
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 規模を拡大しやすい | 設立・運営コストがかかる |
| 法人税率が所得税より低い | 長期譲渡所得の優遇が使えない |
| 節税の選択肢が広い | 法人のお金を自由に使えない |
| 損失を9年繰越できる | 個人物件の移転にコストがかかる |
まとめ
法人化には、節税効果や融資の有利さなど、不動産投資の規模拡大に向けた多くのメリットがあります。一方で、設立・運営コストや、長期譲渡所得の優遇が使えないといったデメリットも存在します。
重要なのは、メリット・デメリットの両方を正しく理解したうえで、自身の投資規模や目標に合ったタイミングで判断することです。特に、個人物件の移転コストを考えると、規模拡大を視野に入れている方は早めに法人化を検討する価値があります。

